新井秀校長説教集34~わたしの家はすべての国の人の祈りの家~

2020年7月29日(水)

朝 の 説 教
-わたしの家はすべての国の人の祈りの家-
『マルコ』11章15 節~19 節

今日のイエス様は、いつもの柔和で優しいイエス様とは違い、怒っています。商人たちのテーブルや椅子をひっくり返したり、別の福音書では「縄で鞭を作り、両替屋の金をまき散らし、鳩を売る者たちに『このような物はここから運び出せ』と命じています。イエス様は何に対して怒っているのでしょうか?

第一は、神様の住まいであり〈祈りの家〉であるべき神殿を〈強盗の巣〉にしていることへの怒りです。この庭で両替商たちは、法外な手数料をとって巡礼者が差し出す貨幣を両替していましたし、商人たちは、貧しい人々が捧げる鳩を神殿の外より15倍もの高値で売っていました。こうして神殿に寄生した商人たちは貧しい素朴な巡礼者から法外な利益をまきあげ、その一部を祭司長や律法学者に賄賂として渡していました。神聖な神様のお住まいである神殿を、人間の欲望で汚していることへの激しい怒りがイエス様にはあったのです。

第二は、差別への怒りです。イエス様は旧約聖書『イザヤ書』56:7の言葉を引用して、「わたしの家は、すべての国の人の祈りの家と呼ばれるべきである」と言いました。でも、実際にはそうなっていませんでした。当時のエルサレム神殿は、外側から順に「異邦人の庭」、「婦人の庭」、「ユダヤ人の庭」、「祭司の庭」と厳重に区別されていました。ユダヤ人以外の人(異邦人)は一番外の「異邦人の庭」しか入れず、女性はたとえユダヤ人であっても、外から2番目の「婦人の庭」までしか入れませんでした。イエス様は、奴隷も自由人も、女性も男性も、どんな国籍の持ち主でも神は平等に愛しておられるのだから、このような差別は神の望まれることではないと怒っているのです。

以上二つの理由は誰が見ても正しいことなので、この庭に駐屯していたローマの軍隊も手出しが出来ませんでした。他方、賄賂を受け取っている不正を暴かれた祭司長や律法学者たちは、今まで以上にイエスを殺したいと思うようになりました。

ローザ・パークスという黒人女性の話をします。彼女はアメリカ南部アラバマ州モントゴメリー市に住んでいました。1955年、今から丁度65年前のことです。42歳のローザはデパートでの仕事を終えて帰宅するため、バスに乗りました。当時、バスは前の方が白人席、後ろが黒人席、中間の席は白人がいない時には黒人も座って良く、白人が乗ってきたら黒人は席を空けることになっていました。ローザの乗っていたバスに白人の乗客が増えて来ました。そこで運転手は「中間の席に座っている黒人は白人に席を譲れ!」と命じました。4人の黒人乗客中3人は席を立ちましたが、一人ローザだけ席を空けませんでした。

運転手がローザの所に来て「なぜ立たないんだ!」と怒鳴りました。ローザは「わたしは疲れているのです。ちゃんと定期券も持っている。立つ必要などないでしょう」と言いました。押し問答の末、ローザは駆け付けた警察に捕らえられ、罰金刑に処せられました。この知らせは瞬く間に町中に拡がりました。この町に赴任したばかりの若いマルチン・ルーサー・キング牧師は抗議活動に立ち上がり、街に住む約5万人の黒人たちに「明日からバスに乗らないことで、我々の怒りを表そう!」と呼びかけました。この町のバスの乗客の何と75%は黒人でした。次の日から黒人たちは車に分乗したり、バスに乗らないで遠くまで歩いたりして、この抗議活動は何と381日(1年以上!)も続きました。このニュースは国内は勿論世界中に流れ、翌1956年、連邦最高裁判所は違憲判決を出し、公民権運動が全米に拡がりました。ローザ・パークスという一人の黒人女性の勇気ある行動が世界を変えたのです。ジョン・ルイス下院議員は「ローザはバスの座席に座り続けることにより、すべてのアメリカ人を立ち上がらせた」と述べました。

先日も白人警察官の暴行で黒人が死亡し、全世界に抗議の行動が起こりました。今日の聖書やこの事件から、神様・イエス様は人間を分け隔てなく愛しておられるのだということを、決して忘れてはならないと強く教えられました。