３．部会＜進路指導部会＞
石﨑 一記
（委員長あいさつ：福島東稜高校校長 橘浩二郎）
皆さんこんにちは。開会より、いろんな意味で私たちの当面する問題に、いろいろな示唆を与えるよい講演を期待しております。本部会は「時代にニーズに対応する進路指導」というテーマの元に、只今から進路指導部会を開会します。私は当会の委員長を務めます福島東稜高校の橘と申します。よろしくお願いいたします。
部会は今日と明日二部に分かれております。本日は、ここに掲げてあります｢自律性の発達とキャリア教育｣ということで、石﨑一記先生をお招きしております。また明日は９時からお二人の先生の発表、これをもとにして、今のテーマに基づく研究また勉強を続けていきたいと思います。
それでは当部会の最初の講演といたしまして、東京成徳大学の石﨑先生をご紹介申し上げたいと思いますが、私の手元にあるプロフィールをずうっと紹介しておきますと、おそらくこの時間全部過ぎちゃうほどいろんなキャリア、いろんな資格、いろんな学会発表、そして著書など、非常にいろんな方面でのご活躍をなさっております。現在はここに書いてありますように、東京の成徳大学臨床心理学の教授、それから同じ大学院の心理学研究科の教授をなさっております。今のテーマについては、本当にエキスパートでありますので、私たちが求める今日のテーマに沿った講演がご期待できるかと思います。私のご紹介に足りないところというのは、先生にお願いしましたが、講演の中で補足していただきながら有意義な時間を過ごしたいと思いますので、簡単に私からはこの程度で講師の紹介を終えさせていただきます。それではよろしくお願いいたします。
（司会）
申し遅れましたが、当部会の司会を務めさせていただきます、私福島東稜高校の池沢尉匡と申します。どうぞよろしくお願いいたします。それではさっそくご講演をいただきたいと思います。石﨑一記先生よろしくお願いいたします。
（石﨑）
みなさんこんにちは。只今ご紹介いただきました石﨑です。今校長先生からいろんな方面で仕事をしているというふうに、ご紹介をいただいたんですけど、そうなんですよね。テーマは自律性の発達ということです。つまり簡単にいうと、人が生き生きとしていること、それからそれを応援することということなんですが、いろんな領域で生き生きしていない人多いですよね。それでまず自然体験とかですね、森の中でいっぱい活動すると人は生き生きとできるというのを、今一つ研究テーマで取り組んでいます。ネーチャーゲームというのをご存じの方いらっしゃると思いますけど、それのトレーナーとか、リーダーインストラクター、指導者養成員とかやりまして、子どもたちを森の中に連れていったりとか、キャンプをしたりとか、それからそういう指導者の方々の育成ですね、そういう仕事をしています。自然の中だと人は生き生きとするというのは、昔からずうっと知られてはいたんですけど、その仕組みというのが分かってきたのが最近のことです。うちの大学では、３年前ですかね、新しく健康スポーツ心理学科というのを作りまして、中学高校時代にスポーツ体験とか、あるいは自然体験など豊かに持っている学生さんたちに来ていただいて、それを心理学の観点から勉強してもらって、４年卒業をすると臨床心理者などに相当するような健康心理士というカウンセラーの資格が取れるんですけども、そんな学校を作りました。言いだしっぺだからお前そっちに移れということで、３年前から臨床心理学科から健康スポーツ心理学の方に移りまして、今そちらの方でカウンセラーの養成ですとか、あるいはスポーツキャリアの方々の教育といった仕事をしています。他にも例えば虐待を受けた子どもたちや、そのお母さんたちへの支援ということで、カウンセリングをやっています。また、千葉県の社会福祉委員会の委員として、いろんな体制づくりの仕事をしています。
いま、働いている人たちが、あんまり生き生きとしていないんですよね。今日の話題にも関係するんですけども、厚生労働省の方で、キャリアコンサルタントという資格制度があるんですが、それの制度づくりの委員をもう７～８年やっています。僕の中ではテーマはずうっと自律性の発達という、つまり人が自分の人生を自分らしく作って、生き生きとしていくということなんですけども、それをいろんな場面で実現できるといいなというふうなことをやっています。
今回の大震災では、皆さんも多分、関係の方々も被災されたり、大変な思いをされているんじゃないかと思います。特に地元ではまだ収まらない状況があると聞いています。関係の方々に心からお見舞い申し上げます。仲間からも、そろそろ落ち着いてきたので、ネーチャーゲームやなんかでも子どもたちと遊んだらと勧められたりします。まだ避難所とかあるいは仮設住宅にいる人たちの話を聞いてきたらと言われ、それで僕も行く準備を進めているところです。先生方の支援をという声が、私の周囲ではよく聞かれます。なんですけども、先生方というのは「助けて」というのがあまりうまくない方が多いですね。頑張っちゃうんですよね。頑張るのは悪いことじゃないんですけど、頑張って頑張って、壊れちゃうとね、それで困る人たちってすごくたくさんいるんですよね。だから本当に大変な時には、「助けて」というふうに言ってもらえるといいなと思いながら、仲間たちと発信しています。今日は、自律性の発達、キャリア教育という観点で、一時間半ぐらいお時間頂戴しましたので、皆さんと一緒に考えたいというふうに思っています。
●七五三現象
進路指導という概念とキャリア教育という概念、必ずしもぴったりと合致するわけではないのかもしれません。今回の研究テーマが時代のニーズに対応するというのが、まさにそれを物語っているのかなと思います。ただ基本的なところは変わったわけではありませんが、社会の状況が変わっていく中で、今までどおりの考え方、私たちが実際にご指導いただいた進路指導の時のやり方や考え方で、必ずしもいまの生徒さんたちの幸せづくり、あるいは人生づくりというふうなものを支援していけないのじゃないのかという声がすごく多くなってきている、ということなんですね。
たとえば今のニートとかフリーターと言われる人たち、先生方ご存じですか、全国にどのくらいいるか。総務省の推計とか、厚労省の推計でちょっとずつ違うんですけど、だいたい全国に１０万人？ いい感じです。先生どうですか、３０万人。先生どうですか。３００万人。ちょうどその間ぐらいですね。いろんな推計で、１００万から１３０万人と言われています。彼らは怠け者じゃないんですよ。一生懸命やろうと思って、自分たちも幸せになりたいと思っている。中には発達障害をお持ちだったり、あるいはうつ病を持っていたりとかという方もいますけども、それは全部じゃありません。一生懸命自分の幸せを求めてやっている。だけどどういうわけか、いつの間にか部屋から出られなくなって、家から出られなくなって、学校にもいけなくなって、いつの間にか家でそのままいる。彼らは幸せになりたいと思っているんですよね。
じゃあそうでない子どもたちは、極めて健康度が高くて、自分の人生を真剣に考えて、目標に向かって努力しているか、というと、そんなことないですよ。ある意味不登校になった子というのは、不登校になるだけの元気があったという見方もあるんですね。つまり不登校にさえなることもできず、だけど目標や将来に対する希望、あるいは幸せと言うものに対して、リアルな実感を持てないけれど、これで学校に行かないというと、親も大騒ぎをする、先生も大騒ぎする、それはもっと億劫だなと思いながら心のスイッチを切って、皆のところにいって、普通に皆に合わせて、自分の部屋に帰るとフーと溜息ついている子どもたちがいる。そういうのを心理学では過剰適応と言ってますけど、そういう過剰適応のお子さんたちというのは、表面には出てこないんです。先生から言われるとおり、お前こういうところ行ったらどうだ、ああそうですねと言って受験をする。だけど大学へ行ってもそんなどうもここで本当に俺は勉強する気あったのかよくわかんないなって。お前ここのところ就職いいぞ。はいわかりましたといって行く。そして行って本当に俺はこんなのでいいのかなって迷う間もなく、嫌だからやめちゃう。
これが一般的に七五三現象と言われています。だいたい中卒の７割ぐらいですね。それから高卒、専門学校卒の５割程度、それから大卒の３割程度が正社員として就職をした、その就職先を３年以内に辞めている割合です。中卒で７割、高卒専門校卒で５割、３年以下ぐらいに正社員で入ったにも関わらず、辞めていっているんですね。彼らは怠け者でありません。一生懸命やっております。何でそんなことが起こっているんだろうかということなんですね。
うちの大学でも学生さんが、卒業して何年かして遊びに来ました。お前どうしているんだと言ったら、元気でやっていますよ。お前確かこういうところに就職したよねと言ったら、先生あそこ辞めましたと。ああそうなの。せっかく正社員で入って希望叶ったんじゃないのと言ったら、彼は何て言ったかというと、そうなんですけどねって、どうもあの会社僕に合わないんで辞めたんですよって言うんですよ。最初ね言っている意味がわからなかったんです。言っている意味がね。あの会社は僕に合わない。君が会社に合わせるんじゃないの。僕に合わない。僕に合う会社を君は探すのか。意味わかんなくて、俺聞き間違いだと思ったんです最初ね。俺どうもあの会社にうまく自分を合わせていくことができないという意味なのかなと思ったら、そうじゃないと言うんですよ。自分に合わない。自分の力発揮できないあそこでは。そういうのは最近すごく多いです。辞める理由を聞くとね。あそこ俺に合わないからと言うんですよね。
このテーマというのは、実は昔から話題になっていて、人がその組織に合わせていくのか、それとも会社がそれぞれの個人に合わせていくのかという議論は、ずうっとあります。効率化とかあるいは企業の中で、生産性をあげるためには、できればなるべく個人は会社の都合に合わせてくれるのが一番いいんです。だけどもそれでは本当に一人一人が働くということに対して、尊厳とかあるいは将来の展望とか、そういうふうなもの持てないので、結果的には生産性が落ちてしまう。そこのところどういうふうにすり合わせしていくのかというのが、今すごく話題になっているんですね。
●合わせるのか合うところを見つけるのか
ワークライフバランスという言葉、どこかで聞いたことある方もいらっしゃるかと思うんですけども、個人が個人としての生活、簡単に言えば家庭生活ですとか、個人の趣味とか、そういうふうなものを大事にしながら、企業の中で、あるいは職場の中で、自分を発揮しながら、社会の中で何らかの役割を果たしていくというふうなところ、どうバランスを取っていくかというふうなことですね。これも人が会社に合わせるのか、会社が人に合わせるのかについての一つのテーマです。
それから会社の方、企業の方はそういうふうに思っている。それから個人の方もじゃあその中で、自分の力を発揮するために、自分の能力をもっと高めていこうとか、この組織の中に自分を合わせていこうとして、ちょうど合致していくとうまくいくんですけど、どうもその七五三現象と言われている現象のように、周りが自分に合わせるべき、あるいは自分は変わらないものだから、それにぴったりはまるところを探していくんだというふうな考え方をする。そういう風潮が特に最近感じられるんですね。
それで思いつくのが、発達観です。発達とはどういうものかという考え方です。発達というのは、本人が持っている個性とか素質、つまり遺伝的要因とそれからその後、どういうふうに学んでいくか、あるいはどういう人たちと出会うか、自分をどういうふうに変えていくかという環境的要因との相互作用の結果として起こってきます。だからもともと持っているものが、そのまま実現するわけではないし、何でも周りの思うとおりに変わっていけるものでもないんですね。両方の特性を絡み合わせながら、有る人は自分の持っている個性に従って何かをやっていく。そうすると、自分が変わってきて、今まで自分が知らなかった個性が伸びていく。そういうことが、やり取りの中で起こっていくんです。
ところが私たちは考え方として、いつもどちらかに偏った考え方をするんですよ。例えばさっきの七五三現象の時にお話しした、あの会社俺に合わないと言っている学生は、つまり自分というものはしっかりあって、それは簡単には変わらないものなんだから、自分の個性にあった環境を見つけていくべきであるという考え方をしているんでしょうね。どちらかというと遺伝を重視する人間観、つまり自分はそんなに急には変わらない。なぜならばもともと持っているものがあるからだという考え方です。
そういえば、最近学生さんたちと話をしてて、付き合った彼女どうしたというとね、昔だったら「もう喧嘩ばっかりしているけど、もう半年付き合ってます」とか、「１年付き合ってます」というの多かったんですけど、今早いですよね。お前この間付き合っていたあの彼女どうしたというと、「先生どれですか」とか言うんです。どういうこと、と言うと、「あれね、合わないから止めました」とね、向こうもそうやって無理して付き合うの良くないからとかね。自分にぴったりの人を探そうとする。それと企業を探すとか自分の居場所を探すというのに、割と似ているんですよ。その中で自分がいろいろ変っていきながら、その中で周りも変わり、自分も変わり、そこでそこの場所が居心地のいい場所になっていく、そういう感覚ってあまりない。そういう人が多いなっていう印象あります。
先生方どうですか。どちらに近いですか。遺伝を重視する人間観、もともと私っていうのあるんですね。才能とか適正、そういうものがある。だけどそれがまだ見つからないから探す、自分探しというのはそういうことですよね。人間って変わりにくい。もともとの自分というのってあるんじゃないか。それからうまくやっていくためには、自分が何か変わっていくというよりも、ぴったり自分に合うところを探していく。あるいはパートナーを変えるとか、恋人を変えるとか、会社変える、周りを取り換える。そうするとうまく適応できるだ。人生は決まっている。ただこれが見つからないから、いろんなことをしながら自分を探していくのであるという考え方ですね。これが遺伝を重視する人間観なんですね。一方で環境を重視する人間観、もちろんもともと自分がもともと生まれながらにしてもっているものがあるけれども、それは周りの人との出会いの中で、どんどん変わっていく。自分が望めばどんなものにでもなれるはず。もしなれないとすれば、それは努力とかチャンスとか、運とかそういうふうなものが不足しているからである。自分は思ったとおりに変わっていくことができる。だから人生は目標に向かってどんどん切り開いていくものである。どちらの考え方に近いでしょうね。
ちょっと時間１～２分とりますからね、近くの方と、俺はこっちだなとか、私はこっちだねっていうの、ちょっと話し合っていただけません。安心して私はこっちというのを言っていただいて構いません。本当は、どちらか一方というのはないんです。どちらかというのは間違いですね。たぶんちょうど真ん中だと思うんです。
いろんな領域、場面によって違ってくると思うんですが、敢えて真ん中で分けたとしたら、自分はどっちに近いかね。お隣同士初めての方もいらっしゃると思いますのでね、テーブル毎に話をしていくときに、ちょっとご挨拶していただいて、お互いに同じテーブルに座った方々同士で話してみてください。
はい、じゃあそこまでにしましょう。どうでしょうね、どっちかというと自分は遺伝を重視する人間観に近い、あっちのような考え方をする。あるいは生徒さんたちに対してもね、自分の個性を見極めろみたいなことを言うことが多いな、とかね、あるいは自分自身についても、どっちかというと遺伝を重視する人間観の方に共感できるなという方、手を挙げて下さい。ありがとうございます。
環境を重視する人間観、どっちかというと自分はこっちだという人、はいありがとうございます。平均年齢は４０歳ぐらいでしょうかね。そうでもないもうちょっと若いですか。３５～６歳、もっと若いですか。そうするともしかしたら先生方の特性かもしれませんね。これ僕１９８７年から大学教員やっていて、今５３歳です。すみません。年齢って毎年変わるんで忘れちゃうんですよね。５３歳です。２８歳の時から教員やっているんですけど、こういう話ずうっとしているんですね。前の前まで１９８０年代から９０年代の頭ぐらいまでは、ほぼ全員がこっちでしたね。環境重視する人間観。９０年代以降どんどん向こうが増えていって、９５～６年に教室の中で、その時１８歳の子どもたちに聞くと、だいたい半々ぐらい。今はねほとんど向こうですよ。若い子たちに聞くと。大学生ね。
だから彼らは一生懸命自分探しをするんです。どきどきワクワクしながらね。本当に僕は、僕を活かしてくれるところどこなんだろうと。そんなこと言ってないでとにかくやれ、頑張れってと言っても、何言っているのこの人みたいな顔してます、彼らはね。だからそれを僕たちが見つけてあげて、君にはこういういいところあるじゃないか、これやってごらんというと、彼らはやっと一歩踏み出していったり、だけどそんなもの自分で探せ。やりたいもの何でもあるだろう。それ目標にして頑張ればいいだろうと言われたら、キャーとか言われてしまう。何無茶言うんだこの人はってね。その時こっちが強く言うと、何か自分を否定されるみたいな感じになる。臆病なわけじゃないんですよ。もともと自分の中には何かある。でもそれ見つかってないから、一歩踏み出せないというふうなことだと。そうするとつまり、せっかく就職しても、その中で自分がどんどん変わっていきながら、本当の自分の幸せとか、自分の人生を見つけていくんだというふうに考えられない人は、つまり７割、５割、３割いたというふうなことなんです。その７割、５割、３割に該当しないという人たちは、もともとはそうであったとしても、その中でなんとかかんとかやりながら、自分の新しい面を見つけていって、その職場とか、場面に適応しながらどんどん変わっていくうちに、バランスが取れるようになってくる。ああそうか自分らしさというものもあるけれど、変わっていって、新しい自分というものもあるんだなと。これはやってみないと分からない。そうなるま、どうやって支えられるかです。
それに関係するのは、この自律性というのがテーマなんですね。彼らにそういう自律性、つまり自分の人生を自分で考えて、自分で責任を持って、やりたいこと、それから周りからの要請、その中でバランスを取って、これは自分で決めたんだというふうに思えるような性質、それをつけていってあげると、キャリア教育はすごくうまくいくんですね。今日これが結論なので、終わりにしましょうか。そうもいかないのでね、それ詳しくお話していきます。
●仕事と生業、キャリア発達
キャリア教育は、進路指導と極めて同じものだと言っていいと思うんです。最近はキャリア教育について、文科省でも厚生労働省でも、同じような内容のことが議論されています。私は厚生労働省の委員会に所属していて、そこでは、キャリア教育という言葉は使わず、キャリア形成支援と言いますが、内容は同じですね。キャリアという概念に基づいて、児童・生徒一人ひとりのキャリア発達を支援し、それぞれにふさわしいキャリアを形成していくために必要な意欲、体力を育てる教育をやる。狭義には、生徒一人一人の勤労観や職業観を育てる教育ですね。つまり人生とか幸せとかいうものを、リアルなイメージを持って彼らの中に育てていく教育のことです。
個々人が生涯にわたって遂行する様々な立場や役割、それをキャリアといいますね。その過程における自己と働くこととの関係づけ、価値づけの累積と、ややこしく言ってますけど、あらゆる人生の中での取り組み、金がもらえるとかもらえないとかに関係なく、趣味とか自分の生きがい、やりがい、そういったことも全部含めて、その人がその人らしく生きていくこと、その取り組みすべてをキャリアと言うわけですね。
日本語では昔からいい言葉があります。仕事と生業です。これが一致している人はすごく幸せな方ですよね。生業というのは、生きるための糧を稼いでいくための働きです。仕事というのは、必ずしもそうでない場合もありますよね。例えば僕の友人で、親からもらった遺産でアパート経営をしているのがいます。彼はボランティア活動なんかやってます。お前の仕事は何だと言ったら、やっぱりその自然体験のインストラクターが俺の仕事だと言っている。それは飯食えないだろうってね。生業はアパートからの上がりだからいいとね。俺も、宝くじ当たらないかなと思ったよ、その時にはね。大学の先生なんかはどっちかというと、生業と仕事が一致している人多いですよね。というか他で役に立たないのが大学の教員やっているんですけどね。もちろん、完全に分かれる人もたくさんいます。両方合わせてキャリアというふうに考えます。
例えばどうせなれっこないような役者を目指してですね、最近あんまりいないですかね、昔よく聞きましたけどね、それをフリーターに入れるかどうかという議論なんか昔したような覚えあります。生業はスーパーのレジ打ち。だけど仕事は役者ね。どういう作品に出ているんだというと、映画の端っこのほうで、エンドロールに名前が出てこない感じではあるんですけど、だけど彼にとっての仕事というのは、役者ですね。なでしこジャパンの皆さんもそうだったようですね。今でこそ皆から注目されてあれだけど、かつては練習しているのかバイトしているのかわからないような感じで。彼女らは間違いなく仕事はサッカー選手ですよ。生業がコンビニのレジ打ちですね。両方これキャリアですよ。全体としてのキャリアということ。
特にそれを分けて議論するときには、内的キャリアと外的キャリアという言葉を使います。内的キャリア、個人のキャリアの内側の側面、簡単に言えば働きがいとか生きがい、自分はどういう人生を送っているんだということに対する自己認識のことです。外的キャリアというのは、肩書きであるとか、所属している組織であるとか、そういうものの積み重ねですね。ややもすると今までは外的キャリアに注目が集まっていたわけですけれども、両方あって初めてその人の人生にかかわるということができるわけですし、その人が幸せというものを考えることができる、それがキャリアという概念なわけです。
そういうキャリアを発達させていく上では、単に上級学校への合格とか、あるいは就職だけでは、当然充分ではないわけです。その生徒さんなら生徒さんの生き方とか、あるいはその人の人格的発達そのもの、それを支援していくという部分が必要です。キャリア発達、その個人の知的な特徴や身体的な特徴、情緒的特徴をその人の生き方として統合していく。例えば趣味、趣味の中で能力を発揮させていく。
「そういうことをやりたいんだったら、それを仕事にしたらどうだろうか」
「いやいや本当に一番好きなことは仕事したくない。これは趣味のままでいい」
「なるほどな、じゃあお前は仕事として、つまり社会の中ではどういう役割を果たして人生を送っていくのかね」……
こういう問いかけの中で、彼らが自分で自分の人生を考えていくようになることが、キャリア発達の概要です。そのために必要な能力として、大きく４つのものがあげられます。人間関係の形成部分、情報の活用能力、将来設計の能力、意思決定の能力、です。これらが育たないと、今の自分の生活、楽しみとか個性などを、人生設計やキャリア形成には結びつけていけません。今の青年期、子どもたちがそういう力がなかなか持てないとするなら、そういう力をつけていってあげると、彼らは自律的に自分の人生を決めるようになっていくんじゃないかと、盛んに言われているわけです。
これらの能力は、本来は特別な教育ではなくて、毎日の生活、あるいは先生方の指導の中でついていくはずです。ところが最近いろいろなひずみ、歪みの中で、どうそういった力が十分に育っていないまま、上級学校にいってしまったりとか、就職をしてしまったりすることがすごく多い。こういう話は、産業界の方から出るんですね。即戦力として使いたいのに、人と会えない。電話が取れない。挨拶ができない。大学の方にはガンガンきます。もっとちゃんと挨拶できるようにして下さい。俺いつ幼稚園に就職したのかなと思うほどのことを、大学の教育でやっていますからね。社会に出て行く最後の場面ですから、高校のせいにしてるわけにはいけません。やります。やっていますよ。学生に廊下で会うと「おはよう」と言ってくる。「違う違う、おはようございますとちゃんとこっち見て言おうな」と言ったら、「おはようございます」。「ああいいね」ってね。やってますよ、僕たちも。うちの大学が特にそうだっていうことじゃないですからね。どこでもそうだっていいます。
でも考えてみると、じゃあそもそもこの前の段階で、彼らは自分の人生を自分のものとして作っていこうという意欲とか目標とか、そういうのがあるのか。そういう視点も同時にあるわけです。
●キャリア教育の強調点
大学ではよく、出口問題という言葉を使います。出口問題としての就職支援あるいは進学。外側にあるキャリア教育で特に強調されている視点、今４つのことを整理しておきました。
まず第1には、ややもすると私たちは、入学してから卒業するまでを一つのまとまりとして考えます。入学の時にはどういう高校からどういうふうな学生さんたちを迎え入れられたか。で来た後それを卒業するまで、僕たちはどんなふうに関わって、どんなふうな教育ができたか。それから最後卒業する時に、どういうところに送り出せたかというところで、彼らの人生に関わりがちなんですね。だけどキャリア発達、キャリア教育というのはそうじゃない。彼らが生まれてから死ぬまでなんです。ずうっと彼らが生きてきた人生とそれから今、たまたま私と大学の中で触れ合っているこの４年間、それからその後の職業人生、ずうっと続く職業人生、その中の一部分であるという視点がどうしても必要なわけです。
例えば退学をしたいという学生がいます。ここだけの話ですけど、学長とか理事長は、絶対辞めさせるなと言うんですよね。退学者減らせと言うんです。それはそうだよね、うちも私学だから。分かりましたと言って、学生に会うでしょう。君はなぜ退学したいのかといって話をする。「いやつまんないから」とか、「どうも居場所がないから」と、そういう学生に対してはカウンセリングをします。彼が居心地を良くするためには、そこで自分の力を発揮できるにはどうしたらいいかを丁寧に話し合って考えます。週に一度ずつ、半年ぐらいやったりします。彼らはそのまま残っていって、友達と適応していくというケースであります。だけどそうではない場合もあります。
「僕はこういうことをやりたいんです。ここではできないから、こんなふうにしてやりたいんです」
「そのためには具体的にどう思っているんだ」
「こうこうこういうふうにしていくんです」
「ではご両親はどういうふうにしてんだ」
「いやこういうふうにやってんです」
「お前は今より幸せになれるか」
「はいなれます」
「でも今より大変だろう」
「大変でも僕幸せです」
僕、さっさと押しますよ、退学届にハンコね。頑張れって言って送り出します。つまり、彼はつまり中退者になったんです。大学中退者。だから入口から出口まで考えたときには、これはキャリア形成、キャリア発達の失敗なんですよ。だけどキャリア教育、キャリア形成支援という観点から見た時には、たぶん彼はそのまま引きとめられて４年間いるほうがいいのか。大学の学費もばかにならない。うちは高い方じゃないですけどね、４年間で４７３万円払わしていますからね。勉強するのいやだったらやめてさっさと働けと言ってね。例えば２００万円しか稼がなかったとしても、４年間で８００万円でしょう。４７３万円払わなくてよくて、８００万稼げるんだったら、４年間で１２００万円近い差が出る。「その方が親孝行だからさっさと辞めろ」と僕なんか言いますけど。でもそれは大学側から言ったら明らかに失敗なんですよ。そういう意味でいったら、引きとめていたら。でも彼がそれで幸せになると言うんだったら、それじゃやめろ、やめて早くそれを始めろ。そのかわり僕のところにいつでも連絡して、こんなふうになったかという話をしろなと。またその時にダメだったら、再入学でもできるから、その時に勉強したいといったら、また大学にくればいいでしょうというふうにしてやる。つまり入学から卒業までではなくて、一生涯の中で今彼はどういう問題に直面して、何に取り組んでいるのかですね。彼はどういうふうにして自分の人生を作ろうとしているのか、あるいはその幸せを僕たちは支援できるかという視点を強調しているんです。キャリア教育という言葉にすることによってね。
それから２番目には今までは、キャリア教育というと、自己理解自己理解と盛んに言われたんですね。自分の個性を見極めましょうとか、自分の今までのやってきた体験を振り返ってみましょうとか。その中で自分はどういうふうな適性があって、どういうふうなことを一生懸命やれるか考えましょうというようなことを。かわいそうです、今の大学生が振り返ったって、たいしてないんだから。たとえば僕たち子どものころには、小学生時代にはギャングエイジと言われて、友達としょっちゅう喧嘩したりとか、つるんだりしたりとか、仲間はずれしたりとか、仲直りしたりとか、時には柿の実盗んで怒られたながら、その時に俺は皆に命令する方なのか、皆に従っていく方なのか、あるいは、やめようぜという方なのか考える、という経験が山ほどあるんです。だからそれを材料に自分の個性は何か、自分はどういうものに向いているのか考えることできるんですね。ゲーム機の中ではそれないですから。ゲーム機の要求に従ってるだけですから。自分の個性の発揮の仕方はあるんですけどね、例えばポケモンの集め方や何かにも、その子の個性というのがあるんですけども、そういうふうなものは材料にならないんです、あんまり。そうすると自己理解しましょうと言っても結構かわいそうなんですね。今までそういうふうにして、いろいろ関わった中で自分の個性は何かと考えるよりも、もっと型にはめてあげて、いろんな体験をして、その中で自分を発見していくということを体験した方が、自己理解や、あるいはキャリアを考えやすいという、生徒さんや学生さんすごく多いです。
今、キャリア形成支援の中で、何が問題になっているかというと、学生さんたちもっとアルバイトさせましょうとかね、大学でサークル活動に参加させるにはどうしたらいいかとか、そんなことやっているんですよ。本当に。そのぐらい彼らは体験プアなんです。そういう中で自己理解、自己理解といっても頭の中だけで作っていって、どんな仕事をしたいのかというと、カタカナ文字で考えて、自分で汗流さない、仕事でないような仕事になっていっちゃう。それは仕方ないんですよ。だっていろんな体験していないから。自分は本当はなんとかプランナーとかって考えるよりも、黙々とコツコツとやってね、同じ仕事を４０年もコツコツやる方が性に合っているんだという人いっぱいいるのに、そういう体験をしていなければ考えたってわかんないです。そうするとむしろ自己理解、偏りでなくて、個性化と社会化のバランス、つまり型にはめる部分と、それから自分らしさを発揮する部分というのを、いかにバランスをとっていくかというふうなことがすごく大事になってくる。それに関係して実体験の不足をどのように補うかですね。
サークル活動や中学高校の部活で、先生方ご苦労されながら指導されているんでしょうね。公立の中学校は、どんどん部活が減っていってます。私立も公立も先生方の大変さは尋常じゃないですからね。文科省が何か思いつく度に、研究員が大騒ぎして、そうすると先生方が書類作らない。あれ良くないなと思うんだけどね。書類作っている暇に、やはり生徒さんと関わった方がいいと思うんですよ。カウンセリングの講習会なんかもそうなんです。勉強にきてる先生方と話をすると、実は今日相談したいという生徒がいたんだけど、それを振り切ってカウンセリングの勉強にきたんですというね、勉強にきている暇に生徒の話聞けよと思うんだけど、普段聞けなくてと言われる。そういう状況があるなかで、大変だなと想うんですけど。でもたとえばクラブ活動をやっていれば、いっぱいいろんなことを学びますよね。人間関係もそうだし、中学高校生ぐらいになると外部の人たちとやりとりなんかする。昔は電話取るのが恐いという子は、いなかったですよ。だって高校生ぐらいから、なんか自分たちでやろうとすれば、先生俺が連絡しといてやるとか、お前ちょっと連絡とっておけと言ってね、自分で電話して、無茶苦茶大人に怒られて、何が悪かったんだべとかいいながら、また電話をかけてだんだん上手になっていくというようなこと、やっていくでしょう。
僕たちが大学生のころなんて、先生にイベントやなんかで手伝ってもらうことなんてなかったですよ。お客で招待したぐらいですよ。今僕たちが結構手とり足とりやらなくちゃいけないような場面というのもあります。圧倒的に実体験が足りないですね。そういう中で自分の人生とか将来を考えなきゃいけない、これ結構彼らの中では大変なんですよね。だから彼らの成績表を見ながら、就職先あるいは進学先をみるということを越えて、もっと日常生活の中で彼らにいろいろな実体験で、対人関係であるとか社会とのつながりというふうなことを、どういうふうに提供できるかということを、今キャリア教育の中でしなければならないという指摘があちこちで起こっています。
それからもう一つは、そもそも自分の人生自分で作るんだ、あるいは自分の幸せというのは自分で作っていくんだという気概や考えをどういうふうに作っていくかですね。これが前提となってキャリア教育が充実していくと指摘されます。背景として、子どもたちの特長として、まず一つは自分の行動を律する、我慢することがすごく苦手であるという側面があります。あるいは行動に対する不安ですね、自信を持って正しい行動ができない。だから周りから指摘されると、逆切れして身を守るしかない。でもこれね、しょうがないんです。４０年代、３０年代後半ぐらいからでしょうかね。ずうっと僕なんかもそうですけども、僕は１９５８年生まれなので、もう高度経済成長期のオールウェイズのまさにあの時代に育ってきましたからね、毎日毎日どんどん豊かになってくるという、そういう中で育ってきたので、よくわかるんですけど、豊かになってきたことというのは、個人の生活という観点で見たときには、我慢しなくていいというふうになってきていることなんですよ。今までは我慢してきたことが、我慢しなくていいということは、豊かさだったんですね。僕と同年齢ぐらいの方は分かると思うんですけど、クリスマスケーキの上に何乗ってましたか。バタークリームだよね。生クリームじゃないよね。赤いゼリーみたいな。知らないでしょう。クリスマスケーキというのは、生クリームに生のイチゴじゃないんだよ。金持ちのうちがアイスケーキだったんだよね。いいな、すげえな、あそこの家アイスケーキだってよといいながら、家ではバタークリームのケーキ、パサパサのスポンジで、バタークリームちょっとしょっぱい、あれ食べ過ぎるとお腹壊すんだよね。上に赤いゼリーが乗っている、イチゴの形をした。それがケーキだったんです。母ちゃんに本当のイチゴが乗っているの食いてーなと言うと、馬鹿言ってんじゃないよ、イチゴは５月だろうとか言われていた。５月まで我慢しなさい。我慢しなさいと。だってしょうがないんだから、無いから。無いからしょうがないというのを、「我慢しなくていいですよ、私たちがなんとかします」といって、皆が頑張ってきたんです。これを豊かさって言うんです。その中で今僕たちは彼らに我慢を教えなくてはいけない。
彼らも日常生活は我慢することがないんですね。テレビのリモコンというのは、もともとは障害者の方のための福祉機器だったんでしょう。動けない人が、動かなくてもテレビのチャンネル変えられるようにというふうな。それが当たり前になっちゃうと、テレビを変えるのに動かなくていいものってね、私も家内にリモコンとってこさせますからね。我慢しなくていいという、これが豊かさなんです。例えば電話をかけるのは、電話ボックスにいくか、玄関の横の所にいかなきゃだめだし、誰かがかけているときは使えない、だけど使いたいなと思ったら、じゃいいです、そんな我慢しなくていいですよ。もう一人ずつ普及していますから。これも我慢しなくていいようにということなんです。日本の社会、世界もそうなんですけど、我慢しなくていいよ、我慢しなくていいよというのが、ずっと国民に対してメッセージが送られ続けている。我慢しなきゃいけないのが対人関係なんですよ、今残っているのが。他は全部我慢しなくてよくなってきている。そういう中で、彼らに我慢が苦手なんですね。「近頃の若い連中は我慢を知らない」と彼らに言うのは、かわいそうだよ。例えば駅のホームやなんかで、我慢しないでタバコ吸っちゃったりしているのは、若い連中じゃなくて、ジジイだよね。ジジイも我慢していない。彼らに対してだけ若い連中は我慢が苦手だというのも変ですね。今社会全体が我慢が苦手なんです。そういう中ででも我慢をしないと幸せになれないんですよ。これ我慢ができるということは、つまり我慢しなければいけない状況を楽に受け入れられるということ。我慢が下手だということは、我慢しなきゃいけない状況というのは、非常に苦痛であるということなんですね。
それから行動に対する不安、自信をもって正しい行動ができないんですね。こういうふうにすればいいんだ。たとえば人と会ったときには、おはようといえば、絶対に自分は批判されることはない。こういうのを知っていれば知っているほど、つまり社会の中にしっかりとある、当たり前の行動の仕方、それを自分で獲得していれば自由になれるんです。それをいちいち自分で考えなさい、考えなさいと言われると、何が正しいのかわからない。つまり相手の人がそれを受け入れてくれるかわからないから不安なんです。だから周りはどうしているのかなと見ると、周りの人は皆不安そうにこうやって見ている状況の中では、やっぱり寝たふりするしかないですよ。ということはつまり、彼らに対して我慢できるような力をつけてあげることと、それから自信をもって、こういう風な行動の仕方をすれば、間違いなく周りの人に受け入れられるし、自分は幸せになれるんだというのがあると、今ここで話題になっているような力を彼らがつけられるんです。これは大人の責任ですよ。彼らの責任じゃないわけですよね。
そのために、まず人と関わることから始めましょうということで、いろいろな先生方に対して、私カウンセリングの中で構成的グループリングカウンター、それからネーチャーゲームもそうです。そんなのを使ってソーシャルスキルトレーニングですとか、一人一人の本音の関わりなどを支援する方法を活用しながら、皆さんに体験していただいたりもしています。ちょっとご紹介させていただきましょうかね、せっかくだから。
●ソーシャルスキルプレイ
そうれじゃあ、近くの人と二人組作って下さい。３人でお座りの方はテーブルを越えてでもいいですから、二人組を作ってみていただけますか。やりたくない人はいいですよ。腕組してね、眉間に皺寄せて待っていてくださいね。ご協力していただける方、近くの人と二人組作りましょう。今二人組できないで困っている人いたら、前後でも左右でもいいですよ。通路挟んででもいいですから、こことここ二人組というの、私に分かるようにちょっとアピールしていただけます。同僚同士でやりにくいという方いらっしゃるかもしれませんけども、やり方だけですから、ちょっと我慢してやっていただきますね。まずお互いにインタビューしましょう。先生手伝って。
東京成徳大学には、付属という系列の高校や中学校あるんですね、そこで毎年春に呼ばれて仲間づくりをやったりしますけどね。まずジャンケンします。勝った方が負けた方に一つ質問をします。お名前は岡村と申します。いろいろ聞きたいけど、ぐっと堪えて、次のジャンケンするんですね。はい何か聞いて下さい。趣味は？ 料理。はいジャンケンポイ。先生の趣味は？ 野球の観戦。ジャンケンポイ。休日どんなことをされてますか？ あまりないので。ジャンケンポイ。ありがとうございます。こんな風にジャンケンしながら、一問一答で答えていって、もしねそんなの聞かれても答えたくないなというのもありますよね。質問するというのはね、私はあなたに関心を持っています。私はあなたのことを知りたいと思っていますというね、そういう気持ちが伝わるんですよ。だから答えたくないときでも、そのことだけは受け取って下さい。あなたが私のこと関心もってくれたということは、とっても嬉しいんだけど、でも私は今答えたくありません。これを伝えるためのいい方法あるんですよ。あのね、「パス」って言うんです。パスと言われたら、あなたが私に関心を持ってくれたことは、とっても嬉しいし、そのことは受け止めますが、私は今答えたくないので答えませんだという意味だと思って、別のこと聞いて下さい。やっているうちに何聞いていいか分からなくなっちゃうんですね。これは質問を考えるからなんですよ。質問を考えると、こういうこと聞いちゃいけないんじゃないかなとかね、これはちょっと嫌がるよねと、自分で知らず知らずのうちにね抑えちゃうんですね。だから質問を考えないで、この人のこともっと知りたいなと思って下さい。そうするといろいろ出てきます。答えられるか、答えられないか、答えたいか、答えたくないかは、答える方が決めることですから、聞く方が決めるのはちょっと傲慢なんだよね。ちゃんと答える方は考えてくれますから、安心してこの人のこと、こういうこと知りたいなというのを質問の形にして出して下さい。時間は９０秒、９０秒の間になるべくたくさんお互いにいろんなこと聞いてほしいですね。もしずうっと負け続けて相手のこと何も聞けなかったという場合には、３０秒の延長戦作りますから、安心してやって下さいね。
それでね、なんか一つのこと聞かれてね、ついつい言いたくなっちゃうんでね。「いやいやよくぞ聞いてくれました。思い起こせば３年前……」なんていうと、９０秒あっという間に終わっちゃいますから、ぐっと堪えてね。答えたらすぐ一問一答したら、すぐまたジャンケンしてね、いうふうに進めていきましょう。何かやり方でわからないところありませんか。大丈夫ですか。じゃあ二人ずつペアでお互いに質問する体制作ってみてくださいね。よーく知っている人同士でも、普段聞けないこととかね、いいですよ聞いていただいてね。はいじゃあ行きますよ。はい始めましょう。今から９０秒たったら合図します。よーい始め。
はいそこまで、じゃここから延長戦に入ります。３０秒間の延長戦、負け続けて相手のこと何も聞かなかった人っています。いませんか。もしそういう人がいたら、この延長戦のときには、そのグループはジャンケンしなくていいですからね、聞かなかった方がずうっと質問して答えるというふうにしてあげてくださいね。今皆さん勝ったり負けたりだったので、普通に３０秒間の延長戦にしましょう。今の同じに３０秒続けて下さい。はいどうぞ。
ハーイそこまでです。
一問一答だけですので、もっといろんなこと聞きたかったりとか、話したかったとかあるんですね。普通にお前ら仲良くなれというふうに言ったんでは、そういう相手ともっと話がしたいとかいうふうなこと、起こりにくいんですけど、たった２分間ですけど、ジャンケンしてこうやってやるだけで、この話がぐっと盛り上がります。さっきお前さんああふうに言っていたけどあれってなんなのよという話が自然に起こるんですよね。自分が感じたこと、それから相手が感じたこと、そういうやり取りをすることで、さっきから言っていた人間関係の訂正能力とか、情報収集能力という、こういうのが知らず知らずのうちに、役に立つなとか大事だなとか、自分はできるなというふうな感覚が少しずつ備わっていくんです。こういうのをがっつりこういうプログラムでやるよりも、毎日のこういう何気ないやり取りの中で積み上げていくという方が、発達段階で大事なんですね。
やり取りするのって簡単だろう。にこって笑ってジャンケンすればいいんだろうというふうな感覚ですね、こういうのが基礎になって人間関係作っていく。だいたい４～５分でクラスの雰囲気ぐっと変わりますからね。それから学年の方で新年度やなんか。渋谷区の方でも実験の中にもあるんですけどね、集団の中で、自分が一人だと思うと、自分が思うことというのはなかなか言えないし、自分らしくは行動できないんです。だけど一人でも知っている人がいるという状況があると、全員知っているのとまったく同じように振る舞うことができる。多数決じゃないですね。自分は一人か、あるいは一人ではないかなんですよ。だからたとえクラスの中で孤立していたとしても、二人で孤立していたら、結構彼らは居心地がよくというかね、大丈夫なんですよね。だけどこれ一人で孤立しちゃうと、とてもじゃないけど居心地悪くなっちゃう。例えば二人組のペアで、今デモなので。だからペアにするというのは、だから一人も誰もはみ出させないというふうなこともあるんですね。必ず誰かと組んで、奇数になっちゃったら、３人でというようなことをすれば、必ず誰かがそのグループの中に所属する。そうすると居心地もよくなる。そんなふうな効果もあります。今度こういうのだけで研修呼んで下さい。３時間とか４時間とか、だいぶがっちりやりますから。
もう一つだけ。話を聞くというふうなこと、いい方法あるんですよ。ここの６人の先生方ちょっとお手伝いいただけますか。前へ出てきて下さい。今からこの６人の先生方が、ある一つの３文字の言葉をバラバラにいいますから、そのもともとの言葉は何なのかを皆さん考えて下さい。近くの方と相談して、わかったところは手を挙げて、これで今ある言葉が書いてあります。丸が付いている文字を一斉に、せーので文字だけをお一人お一人は発生して下さい。例えば僕子どもからトトロと言われているんですけどね、要するにトトロだったら、誰かがトと言います。また誰かがトと言います。誰かがロと言います。それを皆さんが聞いて、元の言葉はトトロだなというふうなそういうゲームですね。皆さん大きな声で言ってくださいね。行きますよ。せーの、はい。じゃあもう一回いきますよ。大きな声でね。シンキングタイム。どうぞ近くの人と相談して下さい。じゃあもう一回いきますよ。せーの、はい。わかりましたか、どうですか。もうちょっと喜んであげてよ。はい正解です。ありがとうございます。あとでお話するソーシャルスキルの一つですね。話を聞くというふうなこと。話を聞くという、音というのは物理的特性でね、絶対に交りあわないですね。重なるだけでね。だから聞こうとして、聞き分けようとすれば聞こえてくるんです。例えばカクテルパーティ効果というの、よく言われますけども、すごくうるさいパーティ会場なんかでね、ザワザワしているところでも、自分から聞こうとすれば相手の話は聞こえるんです。だけど自分が受け身で、こうやっているとうるさくて聞こえない、ダメ聞こえない。授業なんかでもそうなんです。聞こうとするとね、こういう話を聞こうとするという習慣をつけると、話は理解できるんですけど、テレビなんかで、つまらないと変えちゃうしね、音楽なんかも聞いてないですよね。聞こうとする、理解しようとするというのをこういうところで、彼がもともと持っているものを刺激するという、そんな狙いのソーシャルスキルプレイとしても使ったりしています。
そんなようなことを積み重ねながら、彼らがもともと持っているものを刺激して、人生を発達させていくのです。先生方が日頃やられていることも、非常に有効な仕方で彼らの発達を促していくでしょう。
●個性化と社会化
自律というのは、定義的には他からの支配を受けずに、自分自身でたてた規範に基づいて行動することと言われます。自己と一致した行動をすることです。自分でこうしたいという、そういう欲求ですね、そういう気持ちと、周囲のこうして欲しいという気持ち、それを規範と言ってよいかと思いますけど、これが統合した状態です。自律とは勝手に自分の思うようにやるということではないんです。自分で勝手に思うようにやっても幸せにはなれないんです。私たちは社会的な状況の中で、自分でやりたいというふうなことを作っていくからです。つまり他者との安定した関係の中で、自律というのは達成されていきます。今キャリア教育においても、個性化と社会化のバランスをとることがすごく大事だという指摘が増えてきたとお話をしましたけども、社会化というのは、社会の規範のとおり行動する傾向を伸ばすことです。
生徒指導部会が検討されているのも、こういう視点でしょう。社会の規範どおりに行動する。そこから外れた行動を抑制するということだと思います。家庭の問題でも同じで、学習指導に関してもそうです。社会の規範のとおりに行動する傾向を伸ばすことと、それから個人の特長を伸ばしていくこと。これが統合、融合したところに彼らの自律が実現するということです。社会化のない個性化というのは、これは個性化ではなくてね、野生化と言うか、野放しというか、それから個性化のない社会化というのは、言葉は悪いですけど、奴隷化というか家畜化ですよね。それは社会化が悪い、個性化が悪いというものではないです。両方のバランスがとれなくなると、様々な形で歪みが起こってくる。どちらがいいかという話じゃなくて、常にこの個性化と社会化のバランスをとっていく。今教育の場面では、あるいは社会全体の中では、かつての不幸の反省があります。個性化が極端に弱くて、社会化あるいは規律とか画一化が非常に強調されて、それ一色だった時代の反省から、個性化をもっと取り戻さなければいけないと、言われてるんです。私たちの責任もあるんですけどね。教育議論等の中でも、カウンセリングに関しても、それから様々な心理学の中でも、それは確かに強調してきました。社会化、つまり型にはめる方がすごく行き過ぎていたからなんですね。
ところが、今度は個性化の方がすごく強くなってしまって、大人が子どもを型にはめることに罪悪感を持っているわけです。そうすると彼らは、「考えずにその通りにやればいいじゃない」ということさえ一々考えなければ行えない。それでいいかどうか分からないし、普段我慢していないから、ちょっと型にはめられると、そのことだけですごいストレスになってしまって、苦しくなってきちゃう、というふうな状況が今起こってきています。両者のバランスがとれていれば、まあそうだよな、相手が嫌だから我慢しないとなと、軽く我慢できちゃうんですけど、普段そうじゃなくて、個性が大事、お前の気持ちが大事、お前が何をしたいのか大事とか言われている中では、我慢をするということに関して、すごい罪悪感を持っていたりしたりする子たちもいるということなんですね。どちらがいいとか悪いとかという話じゃないんです。両方バランスをとることがすごく大事なんです。
それからもう一つ、発達段階において働きかけを変化していくことが大事。一生を渡ってずっと個性化と社会化が半々ということじゃないですね。小さい頃は社会化の方が中心になってきます。だって生まれた時は、ワンコもニャンコも赤ちゃんも同じです、もともとね。命として生まれて、動物として行動を始めるわけですからね。だからまずはしっかりと型にはめるというか、これはダメ、これはいい、こうしなさい、こういうときはこうするんだよ、というふうなことを教えていく。それが自分の中で獲得されるようになってきたら、だんだんに個性化の方がバランスが増えてくるということですね。そういう全体的な発達段階において、働きかけの変化というふうなものがあります。
アメリカで、動機付け、意欲付けの研究者なんですけれども、ライアンという人が自律性の発達というふうなものを検証している。それを手がかりにして今日話をしようと思いますけどね。最終的には皆一人一人の人間が、あるいは子どもが、自分で思うことを自分で考えて、自分で目標を決めて何か努力をしていく。つまり内発的に動機付けられている状態。人から言われるんじゃなくて、自分で進んでやることが目標ではあるわけでうけれども、じゃあそうなるためにはどうしたらいいのかというものが、ライアンの理論です。最初からいきなり外発的に動機付けられる、つまり勢いよく自律的にいくということはありえません。最初はいやいやながらやっていったものが、自分の中にだんだん取り入れられていくことの中で、自分が変わっていって、やがて自律的になっていく、そういう理論なんですね。それはそうですね、だって知らないんだもの、生まれた時は。社会がどういう要請を持っているのかとか、社会はどういう行動を期待しているのかというの、わかんないですからね。統合のしようがないですよ。まずそれをきっちりと彼らの中に訴えていく。同時に自分の中にある欲求も失わないようにして統合していくと、内発的動機付けに発達していくようになる、というんですね。最初、何もしない状態がある。無力状態ですね、言われても勉強しない、とか。やがて外的強制、社会的強制で、言われるから勉強するというふうになってきます。どうも勉強するということはね、やった方いいらしい。俺やりたくないな。だけどしょうがない、うるさいからやるか。これが外的強制と言われるところです。他者からの強制、こういうふうにしてやっちゃうと、こいつはいつまでたっても自分で進んでやらないんじゃないか、と思うかもしれません。でも、この段階でほっとくと、言われても勉強しないに戻っちゃう。最初は言うんですこれね。「いいからやんなさい」「嫌なんだよな」「嫌なんだけどやると約束したからやれよ」。しつこく、やんなさいと言う。これ外的強制の段階ですね。取り入れていく強制、他者からの強制を消極的に受け入れる。自分ではやること大事だとか、やった方が大事だと思っていないんだけど、やらないと怒られる、不安だからとか、恥をかきたくないとか、将来困るからというふうな取り入れ的強制の段階ですね。規範とか社会の期待というものを納得はしていないけど、マル飲みにしている状態というふうなことです。だからこれは周りがかわれば、つまり環境が変われば「そうだな、俺別にやらなくてもいいよな」というふうにすぐきます。だけど周りの人が、やった方がいいんだ。やらないと困るなんて言い続けると、この状態がずうっと続いていく。
こういう状態の中で、自分には価値がある、グッドイナフね、それ自尊感情といいますけど、どうも自分はちゃんとできるらしい、自分は価値のある人間である。こういう気持ちが育っていくと、やがて統一化的調整という段階に入ります。これ積極的な自己決定ですね。規範を受け入れて規範のとおりに行動するという段階ですね。先生に好かれたいからというのもこの段階です。先生に好かれたいから、先生の顔色うかがって先読みして、先生が喜ぶようなことをするという、これは統一化的調整ですね。まだこれも途中の段階です。自分にとって大切だから勉強する。先生や親に好かれたいから勉強するという段階です。そして、統合的調整、確かに強制と自己の欲求が統合して、喜んで勉強をするという状況になります。この統合的調整、あるいは内発的動機付けの状態ですね。これが自律的な状態です。つまり周りからの期待や欲求、社会からの規範、そういうふうなものと自分の欲求というものが、ちょうど統合してきた状況。勉強に関して例をあげてお話ししていますが、社会的な行動、あるいは自分の人生設計なども同じです。進学動機なども、自律的な進学動機は、今のような発達段階を経て獲得されます。この理論はいろんなところで使われますので、どこかで似たような話を聞いていただくかもしれませんね。
一足飛びにはいかない。段階をおってやっていく。中学校なら中学校だけ、高校なら高校だけでなく、生まれてからずっとすごしていく中で発達していくということです。先生方は、進路指導をされるとき、一人一人のお子さんが、全体として今どんな動機で、どんな人生発達の中で取り組んでいるのか、という視点を持っていただくと、彼らの発達に一番ふさわしいような働きかけができると思います。
●自律の伸ばし方
では、実際に指導する際、そういった自律は、どうすれば伸ばせるかということですね。最終的な自律的な状態、すなわち内発的に動機付けられている状態になるための、内発的な三つの源泉というのがあげられています。一つは自己決定、もう一つは有能、もう一つは関係性ですね。
自己決定というのは、自分の行動は自分で決めることができる。そういう信念のことを自己決定と言います。それから有能というのは、自分には環境に意味のある変化を引き起こすことができる。そういう力がある。そういう信念ですね。自信と言ってもいいかもしれません。自信というと結果に対する信頼感というふうに誤解されがちですが、言葉のとおり、有能、自信、自分を信じる、自分はやればできるとか、自分は今までやってきたんだとか、これだけの努力をしてきたんだとか、そういう自分に対する信頼感、有能と言っていいと思います。それからもう一つは関係、つまり繋がりの実感の中で、安心感をもって成長していくことができるということですね。親密な人間関係、つまり関係性ですね、常に見てもらえているという安心感を与えること、この中で彼らは自律を発達させていきます。
大学生でもそうですよ。僕たちが、学生さんたちを見ているよ、知っているよ、なんか悩んでいるんでしょうとか、そういうふうなメッセージを送ると本当にうれしそうにしてますよね。最近どうしたの。何か悩んでいることある、通りすがりにね。教室やなんかだと２００人位いる教室でも、割とそういうの狙って顔を見ながら話をして、講義終わったあとで、最近なんか元気ないんだけど、時間あるとき部屋に遊びにおいでというふうに。何人もできないですけどね、２００人３００人もね、他の学科の学生なんかもいるから。何か部活動なんかでこんなのやったそうだね、こないだのすごいじゃない。何とか会で論文が賞を受けたんだって、というふうにいうと、すごく照れくさそうに嬉しそうにしています。いつもちゃんと見てもらえているというふうなことですね。さらにそれでいいんだ。よし失敗したんだけど一生懸命やったからいいんだというふうなこと。君がやろうとしているということは正しいことだよ。そういう承認の価値づけということを与えることで、不安を取り除いて自信を育て、正しい行動は何かを常に示していく。そうすると自律性が発達をしていくということですね。親密な人間関係、つまり安心感がすごく大切であるということですね。
相手が言うことを聞かないと、ついつい強くでたりしちゃうんですよ、私たちは。逆なんですね、権威が言うことを聞かせるんじゃなくて、言うことを聞いてくれるから権威があるんですね。大人でも子どもでもそうなんですけど、無理な要求をする人を、相手のことを良く見てない人のこと権威とは認めないですね。今彼はこういうふうなことで悩んでいる。適切なアドバイスをしてくれる人の事はよく聞くんです。ですから、もし生徒さんがあまり言うことを聞いてくれないとしたら、十分見てないとか、相手の気持ちの理解がちょっとずれてないか、などをチェックした方が、強く言って聞かせるよりも近道だったりします。
自律と自立、日本語だと音は同じですが、まったく違うんですね。今ここで目指しているのは、他人とうまく協調しながら、自分で正しいと思う行動をすること。それを目指している。勝手にやると、他人は関係ない、他人には頼らず自分一人でやるということではありません。親密な人間関係をベースにしたものを育てていくということですね。それを与える、認められることで自信が形成される。自信と自己決定というのが、内発的動機付けの源泉になっていますので、そういう体験をすることで、彼らはすごく安心して自分の決めた道を歩んでいく勇気を得ることができるということです。そういう意味では、あんまりほめられて育つというのも、難しいんですよね。ほめられるのは、つまりほめる人がいるんです。褒める人、褒められる人よりも常に強いんですよ。その人に褒めてもらえるから嬉しいという関係でいうと、さっきのでいうと、取り入れ的調整、同一視的調整の段階なんですよね。別に褒められようが褒められまいが、ちゃんと見てくれている。自分が自分で決めたことを認めてくれている。間違っている時は間違っていると、賛成の時は賛成という、俺が嬉しいときは一緒に喜んでくれる。悔しがるときは悔しがってくれる。こういう関わりの方が本当はいいんですけどね。これまた説明するのに結構手間かかるので、結論だけになってしまって申し訳ありませんが、褒めるというのはむしろフィードバックするというふうな関係で、関わる。君は今こう思っているよね。君は前はこうだったけど今こうだよねとか、頑張ったらこうできたよねとか、そういうふうにフィードバックする。お前はすごい、俺はお前のこといっぱい褒めてやろうというよりも、どちらかというとフィードバックという方が、彼らの自尊心や自律が高まっていくということが言われています。
もう一つは価値づけですね。大切なことを大人が自信をもって教えるですね。これが今社会的にだんだん弱くなってきているんですね。だから彼らがやろうとしても、どういうふうにしたら自分が望むようなことをできるかというモデルがすごく不足している状況なんです。ぜひ親とか先生方がね、いいモデルやスーパーマンでなくていいんですけど、一生懸命やっている姿を遠慮なく見せていただいけるといいなと、すごく思うんですよね。いっぱい悩んだり、苦労したりしながら頑張って、幸せというのはこういうもんだというのを、親とか身近な大人が子どもたちに見せてくれるといいなと思います。俺好きなコマーシャルあるんですけど、生命保険かなんかのコマーシャルで、僕テレビ大好きでよく見るんですけど、子どもとお母さんがお父さんを待っているような夕食の風景。そこのテーブルで子どもが絵を描いている。お父さんが今度課長になったんだよというと、子どもが課長って偉いのと。偉いのよといって、子どもがどの位偉いのと聞くと、お母さんが新幹線の運転手さんぐらいという。そうすると子どもが、えーすごいねと。幼い子の景色は課長さんになったお父さんが、上司から怒られ部下から突き上げられ、取引先にいって頭を下げて、柱のところで溜息をつきながら満員電車に揺られて帰ってくる。帰ってドアを開けると、ああパパだといいながら、玄関に入ると見つけてくれる。そういうストーリーのあるコマーシャルなんですけどね。ああいうふうな姿、頑張っていることとか、悩んでいることとか、そういうのを彼らにいっぱい見せてあげるといいですよね。それがなかなかできない。だから彼らはそういう行動がわからない。知らないのか、わからないのであれば教えてあげる。できないのであれば適切な経験とフィードバックが大切、やろうとしないのであれば安心できるような関係性の中で、並行関係を積み重ねていくことによって、彼らは適切な行動ができるようになっていくわけですし、人生が発達していくということなんですね。そのために私たち大人がまず放任と自律性の支援というのを、明確に区別をする。彼らに任せるといいながら、放っておくのは、これは放任ですね。自律性を伸ばすためには本人に任せるよりも、しっかりと関わりながら、それを見ながらどんどん問いかけをしたり、あるいは成長をフィードバックしたりという方が、自律は実は伸びていくということです。関心を持たなかったり、間違ったことを正さないという中で、これも彼らに任せてあるんだからと、これは放任であるということですね。だからむしろ自律性を支援するためには、積極的に関わっていくということがすごく大事です。ソーシャルスキルの場合でも同じで、さっきやったみたいなああいうゲームでもね、結局練習だけで遊びみたいなもんだろうとね、心が育たなければ本物じゃないという議論を良く聞きます。あるいはああいうふうにしてやったって、実際はできないよねというふうな話も聞きます。だけどこれはねどこからでもいいですよ。この三つのサイクル、心が育つこと、それからああいうゲームみたいなことを通してね、スキルを身につけること、それから日常生活の中で実際に行動すること、この三つはどこから始まっても回っていくんです。心が育てばスキルも身に付きやすくなりますし、スキルが身につけば実際にも行動できますし、実際に行動するとそういう光景と言うのがどんどん内在化して、育っていく。どっからやってもいい。日常生活の中でなかなかできないんだったら、あるいは心が育たないんだったら、まずスキルを身につけさせて、それに対してどんどんフィードバックしながら、彼らの心が育っていって、実際に行動しながらということで、全然構わないんですね。その時に大事なのが、社会の規範や価値観、こういうふうなものをしっかりと持っている周りの大人が、それに基づいて一貫性を持って、実際に行動したこと、あるいはスキルを身につけてきたこと、あるいは心が育った事を認める。承認するというような、そういう機能なんですね。
この間の震災のときもそうですね。震災直後にいろんな身近にあるいろんな話がネットに流れていたんですけども、ソーシャルスキルとかキャリア形成に関する自律性という観点で見たときに、実は今若い子たちというのは、かなり力を持っている。だけど実際にそれ使って人生設計をしようとしないなという場面がいっぱいありました。たとえば液状化のディズニーランド、あそこで遊んでいた人たちが帰れなくて、一晩泊ったんですね。その時にテンパーでチャラチャラしたのを携帯につけている女の子二人組が、そのパンだか牛乳だかを配っているところに行ってね、一人牛乳1個とパン1個だよと言われているのに、２～３個もって行ったんだって。係員がむっとして、それから周りの大人も、まったくしょうがないなと思って見てたら、その子たちがちっちゃい子どもがいて、動けないお母さんと子どもたちのところへいって、ハーイ取ってきてあげたよと言って、どうもありがというといったけど、うーんといって、困っているときはお互い様といったというんですよ。できるじゃん。何でいつもの生活しないの。実際に行動するとこうできないんですね。彼らは人生の事に対して、もしかしたら潜在的にそうやってそうやって自分の人生作ろうというふうなものは、あるのかもしれない。あるんだったらそれが使えるような環境を僕たちは作らなければ、あるいはそれを使って自分の人生、自分の幸せを設計していいのかなというふうに励ましてやる。もしかしたらそこが足りないので、いつも自信がなさそうにフラフラしている、そういうふうな生徒さんたちいるのかもしれないなと、この間思いました。
●いま求められる関わり
今日は時間の都合もあって、充分にご紹介させていただけませんでしたけれども、対人関係ゲームですとか、レクリェーションそういうものの活用する中で、彼らのキャリア形成に役立つものもたくさんあります。資料の中に入れておきました。
大変雑駁な話で、子どもが安心して自分の行動の拠り所にできるよう、大人が喜んで社会の規範を受け入れて行動することの中で、彼らが自分たちのこれから先の人生、それを自信をもってターニングできるような、そういうふうな関わりというものが、今何よりも求められてきたんだろうなと思います。このキャリア形成の問題って大人たちがモデルなんです。知らず知らずのうちに子どもたちへ、このまま大人になって、どうも幸せになれそうもないなってね、大人になりたくないなってねいうふうに、彼らは潜在的に思っている状況の中で、キャリア教育とか進路指導というのを考えるのは、非常に大変だなというふうに思うのです。彼らの中にある本音、幸せ、コミュニケーション、そういったものをキーワードにして、君たちが生まれてきた世界は、すごく素敵な世界なんだ、君たちは幸せになれる、それを僕たちは応援していきたいんだというメッセージをずうっと送っていきたいなというふうに思っています。今日お話しした内容、さらに詳しく聞きたい方は、パンフレットの中に読みやすい本を紹介しておきましたので、参考にしてください。あと最後ご質問あれば、時間ありますのでいただきたいと思います。まとまりのない話で申し訳ありませんでした。どうもありがとうございました。
司会 それでは石﨑先生ご講演どうもありがとうございました。もう少々時間が残っております。今先生の方からもございましたけれど、せっかくの機会であります。皆さまの方から何かお聞きしたいことございましたらば、よろしくお願いいたします。なお申し訳ございませんが、記録の関係で、ご発言なさる際には、学校名、お名前をおっしゃっていただけると助かります。どうぞご遠慮なくお願いしたいと思います。
木村 八戸工業大学第二高等学校の木村と申します。今日は八戸工大の方から二人で参加させていただきました。大変勉強になりました。ありがとうございます。一頁に関係してくると思いますけども、昔からミナトリアム世代とか、そのあとピーターパン症候群とか、そういうふうな表現がありました。何年前かわかりませんが、そういう流れの中で、今の子どもがいるとしたら、僕の認識だとまだその時は、こいつらしょうがないなみたいな、ピーターパンを使おうといいながら、それより今の方が排他的な見方がある気がしているんですけど、その辺のあたりがこの認識が間違っているかどうか、その辺がまず一点お願します。
石﨑 おっしゃるとおりだと思います。１９７０年代位ですかね、たとえばスチューデントアパシー、大学に入ったけれどどうもやる気がなくて、クラブ活動やなんかはするけれども、勉強しないというのが話題になっている。それからおっしゃったピーターパン症候群、大人になりたくない。大人になるということは、例えば自分が社会の中で、どういうふうな役割を持とうとするのかとか、あるいは結婚とか、独立する、そういうものに対して、すごい拒否感を持つというような現象、そのようなものがかつてはすごく問題になっていた。でもそういいながらも彼らはなんだかんだ言って働いたりとかあるいは自立したりすることができたんですけど、今社会問題になっているニートとかフリーターとかいうのは、先の見通しがないまま、つまり転校するでもなく、努力するでもなく、ただ留まっているところで、関わりようもないし、支援のしようもなくて困っているという状況ですね。臨床心理学的な支援もかなりの形で行なわれていますし、厚生労働省やなんかもそれに対して、例えば若者自立塾であるとか、あるいはサポートステーションみたいなところを作ったりとか、それから私が取り組んでいるコンサルタントもそうなんですけど、フリーター支援のことも視野に入れながら制度づくりしたんですけども、部屋から出てこないんですよ。誰とも会わないという状況になっているのが、極めて深刻なケースなんですね。だからその前の段階で、そういうふうなものをなんとかくい止めたいというのが、今一番大きな問題なんです。かつてはピーターパンシンドロームとかアカシーとかというのは、とりあえず出てきましたからね。関わっていていろんな手当ができるんですけど、今そうなってしまったりしている人に対しては、５年とか１０年とかの大台でようやく外に出てくる。ただ出てきたあと、就職活動するまでの間は、サポートステーションで２～３年かかるという中で、ぜひその前の段階でなんとかしたいというのが、今の課題なんですよね。そういう意味で今ちょっと変わってきているかもしれません。
木村 ありがとうございました。あと一つ、なんかの書類で学習性無力感というんですか、そういったのを見たときがあって、その無力感というのを、例えば何やってんだお前というので、逆に無力感に突き落としてしまうような状況だと。彼らに責任があるんじゃないく、この辺が外的強制から取り入れていくときに、こちら側の態度でそういったふうに陥ることがあるものなんでしょうか。
石﨑 一度何かをしたからといって、それで子どもがすぐに傷いてどうにかなるというようなことはありません。今ご指摘いただいた、学習性無気力というのは、センクマンという人が見つけた現象なんですけど、頑張っても頑張ってもどうしてもできないときには、頑張ろうとすることさえしなくなる。そういう現象なんですね。自分がこんなに努力したのに、それでもどうにもできないということは、頑張っても無駄だし、自分でもどうにもできないだろという、そういう強い信念を持ってしまうというふうな現象です。それはだからなんだお前ダメだなと言ったからといって、すぐなるわけではなくて、その場合はあの先生ダメなんだというふうに、その生徒さんの方から先生に対して厳しい評価があるかもしれませんけど、その子がいきなりすべて必ずしも無気力になるということはないですね。もしそうであれば、それまでに積み重なっていた、つまり自分はこんなに頑張っているのにどうにもうまくいかないというとき、最後の望みであった僕を理解してくれる先生から見捨てられたというふうなことで、最後の糸が切れちゃったという、もしそういうふうなことがあったときは、そういう現象かもしれませんね。努力気力というんですけど、何かうまくいかないとき、それは頑張ればできるはずだというふうに言うと、そのこと自体は頑張ればできると信じている間は、無気力に陥らないんです。つまり自分で頑張れば変えられる。状況変えられるから何とか頑張ってうまくいくじゃないかというふうに行くんですけど、これが積み重なると、頑張れ、頑張ればできるというけど、俺今まで１５年間ずうっと頑張ってきたけどダメなんだぜって、まだこれから先頑張れというのか、こんなに頑張ってもダメって、俺よっぽどダメなんじゃないかとかと思ちゃうんですよね。だからさっきのにも関連してくるんですけども、頑張ってもできないことがあるんですよ。頑張ってもできないことを、お前頑張れて言わない。こっちの人は頑張ればできるというふうに言いがちなんだけど、頑張ってもできないことあるんですよね。だけど俺にとってはやれることにどういう意味があるのか、そういうカンカケをした方がいい場合もあるんじゃないでしょうかね。やりたいのか、それともやらなければいけないと思ってんじゃないのか。お前本当にそれやらないといけないのか。こんなに頑張ってもできないんだったら、お前にとって意味ないんじゃないのかという問いかけをも時には、私たちのレパートリーの中に入れておかないと、今ご紹介いただきたいような現象を作っちゃうんですよね。結構だから底辺校と言われるような学校の生徒さんたちなんかには、そういうぎりぎりのところで、土俵際のところで頑張っているという、そういう生徒さん、その中で印象を受ける先生いっぱいいますよね。そういう形で頑張れって俺言えない。お前にとって意味があることとはなんだと問いかけることが多いですよね。お前は幸せになれという感じで、そのためにどうなのかというのもあるんでうけど、努力と無気力の中ではそんなことを言われています。
司会 ありがとうございました。それではまだまだお話がつきないところではございますが、只今をもちまして、当分科会本日の部を終了したいと思います。まずは石﨑先生に改めて大きな拍手で、感謝の気持ちで、ありがとうございました。