３．部会＜学習指導部会＞
講評
（板倉 清）
私は東京の学校にいまして、ほとんど東京から教師生活で出ることがなく、今回初めてこういった研修会に参加をさせていただきました。そこで感じたのは、共通項の部分と違う点があるということです。一つ大きく異なるかなと感じたのは、私の中では首都圏じゃない地方における公立と私立の関係は、公立がかなり圧倒的に強いだろうとか、あるいは私学情勢その他についてもかなり苦労されているのであろうという漠然とした認識しかなかったのですけれども、今日、お二方のお話を伺いまして、私の思っていた以上の大変さはあるかなと感じました。
東京の場合ですと私学が中高で246校ありまして、東京都の私学協会にそれだけ参加しているのですけれども、収容している生徒数が東京都全体の半分くらい。もしかしたらちょっと超しているくらいの数なんですね。従いまして東京都としては、私学を全く無視して東京都の教育が成り立たないという状況がありますので、私学としてはたぶん日本で一番動きやすい団体ではないかなと感じてはおります。
そういう点が大きく違う点と、お二人の発表は高校からの生徒の指導という点で共通してましたが、私のところは中学からということで、高校を迎えるにあたっての準備状況の有利さがずいぶんあるかなと感じました。ただ生徒の層は、地方の高校に入ってくる生徒さんの学力差の問題程かどうかはわかりませんけど、中学から入ってきた生徒の学力差というのもあります。例えば本校はこの4、5年で偏差値的には7ポイントか8ポイントくらい上がったのですけれども、その分第一志望率が激減していくわけです。上を狙って駄目だった人たちが入ってくるという形になってくるわけです。例えば、「私はここにいるような人ではないのよね」と言うような中学一年生の生徒が入って来たり。そういう状況の中で第一志望であった人たちは当然面白くないわけです。そういった問題を解決するために入学式終わったらすぐに宿泊オリエンテーションやり、グループワークだけでやるというスタイルをとり始めたということがあるわけですね。
そういった問題関心は割合共通しているなと思ったのと、今日私がとても興味深く伺ったのは、二方とも共通しているのは高校一年生の扱いをどうするのかということがテーマになっておりまして、本校もやはり今それが問題になっております。今、中3のうちに文理選択を決めて、高1から文系コースと理系コースに分けるのですけども、それによって早めに目標を持たせてモチベーション高めて、生徒の進路希望実現率を高めようとここしばらくやってきたのです。それで確かに上がったことは上がったのですが、じゃあそのままで上がり続けるかというとそれは無理だと感じ始めているのですね。それは高1で理系を選ぶ生徒というのは、ある程度職業と結びついた部分でのモチベーションを持っていますから、学習姿勢というのは非常に高いのです。文系の生徒というのは、どの職業と特別にあるわけではなくどこ行ってもいいわけですから、モチベーションを持ちにくいし、どうせ英国社でしょ、という勉強スタイルになっていく。それだと多分、より高いところ、国公立だとか早慶だとかに入りたいと思った時に、そういう狭い考えでは無理だと考えています。だとしたら、昨日の全体講演でもありましたけれど、文系・理系とかと区別するのはおかしいじゃないかという論理があって、だったら今の中1から高1までは同じカリキュラムにして高2から分けよう。その代わり4年間で総合的な力をきっちりつけよう。人間的にも学問・興味関心という点でも、理系の科目だろうと文系の科目だろうと全部自分の学力だ、という考え方をきちんと取らせようという意味で1年ずらすことにしたのです。昨日は申し上げる時間がなかったのですが、将来にはそれもなくしたいなと考えております。極端に言いますと高2まで全員が総合的な学習をきちんとやって高3で進路選択の科目を取ればいいと考えているのです。
高1の過ごし方という点で言いますと、丹尾先生のところは高1の段階で中学時の復習も含めて、やり直し学習という、そういう考え方・学び直しの学習は私どものところでも考えているところで、とても興味・関心を持たせていただきました。やはり中学までの復習ということは、スタートに当たってはとても大事なことだとも思います。それを田村先生のところではかなり生徒指導という言葉遣いにこだわっているように感じましたが、あくまでも勉強すればいいんだという指導では子供たちはなかなか動かないというところがあると思いますね。今回私が感じたのは、いろんな中学からいろんな学力を持った生徒さんが集まってくる中で、各学校さん苦労されていろんなコース制を考えていて、丹尾先生のところは多分二つのカリキュラムというか二つの学校があるくらいの感じ方ではないかなと思うのですね。うちなんかは高校生から一部入っていると、カリキュラムが二本立てになってしまうのでそれは大変なのでやめてしまおうと気楽な部分があるのですけれども、多分日常的に苦労なされるだろうなと思います。
そういう意味で学校ごとのいろんな工夫をせざるを得ないというところがあると思うんです。それはある意味どこかの学校がいい方法を教えてくれて、ストレートで移し替えるというのはないと思うのです。結局は自分の学校の生徒の状況をきちんと見つめて、生徒たちが一歩自分で進んでみようかという指導体制をどう作っていくかというのは、結局その学校の先生の責任だろうなと。ちょっと言い方として申し訳ないのですけれども、私の経験から申しますと、研究会に出ると何かいい方法をくれるのではないかと参加するのですが、結局は自分の学校の生徒の状況を学校の先生がきちっと見つめてあげるということがスタートにならないと始まっていかないかなと感じています。
何よりもわたくしは勉強しなさいといって、できるものじゃないと思うのですね。なんかやってみたら面白そうだからやってみようかとか、なんかすごそうだったけどやってみたらそうでもなかったなど、そういった子供たちの意識を作っていく生活の仕方や規範意識もそうでしょうし、学力というのはいろんなものを総合的に支えていかなきゃいけないというのは基本だと思います。人間力が学力を支える。学力の改革をやればいいではなくて、テクニックに走った改革は生徒から解離してしまうのではないかと、わたくしは自戒しています。生徒自身の現状が一歩変わる、生徒も変わったかもと思える。そこを目指すのが改革の姿勢かなと思います。
何しろ私は人間力の基本は自立だと思います。生徒に自立心を持たせる。自立ということは、自分と自分の将来に対する責任を持つという姿勢をつくるということだと思うのですね。それには時間がかかりますので、勉強しなさい、自分でやりなさいと言って、自立するかというとそうはいかないのですね。
保護者にも言ってますが、家庭でも言ってくれと言ってますが、「せかさないこと。先取りをしないこと。肩代わりをしないこと。」この3つなんですね。早くやれ、早くやれと言って子どもが喜んでやれるかというとやらないし、やらないならこうすればいいのよと答えを先に言ってしまって子どもにやらせるとか、最悪のケースはもういいわよと言って親がやってしまって今度からこうするんだよということ。これをやって子供が何かを学ぶかというと、何も学ばないので、親がただ自己満足のためにやっているだけです。学校も同じで、私どもはできるだけ結論を押し付けるのではなくて、失敗していいよというのもそういう意味ですし、どんどん挑戦しなさいというのもそういった意味ですし、やっぱり子供自身が学んでいくという環境づくりが一番大事なのではないかなと思っています。
今回私は東京を初めて出ましていろいろなことを学びましたし、ただ共通していることは学校それぞれの悩みや問題点があるにしても、スタートは結局その学校の教師が子供に責任を持っていくという体制づくりを一歩始めるということしかないのかなと感じました。子供たちがそれによって変わってくれれば、次世代を担う際の大きな力になると思います。
あくまで教育というのは未来を創る作業だと思っていますし、ぜひ先生方のご努力を続けていただければありがたいと感じました。50回という記念の年にわたくしも参加できて心からお礼を申し上げるとともに、先生方の今後のご精進と生徒たちの大きな未来が拓くようにお祈りいたしまして講評に変えさせていただきます。