３．部会＜学習指導部会＞
丹尾 芳美
本校学習指導の現状と課題
１．はじめに
本校は、明治４０年に「女子技芸学校」として創立され、創立当初は「被服科」「手芸科」「商業科」などを設置する女子生徒の就業のための学校でした。創立以来幾度かの名称変更を経て、また昭和２８年に「男子部」が設置され、昭和５４年に現在の「学校法人敬愛学園 国学館高等学校」となり、今年で創立１０５年を迎えている。
現在本校は普通科と調理科の２学科を設置している。
普通科では、平成１７年度より多様な生徒の進路希望を達成するために、進路に応じた必要科目を選択する「単位制」を導入している。これにより、生徒の興味・関心・進路目的に応じたきめの細かい学習指導が可能となり、生徒の学力向上に効果を上げている。
また、調理科は、秋田県内で唯一、卒業と同時に調理師免許を取得できることもあり、非常に人気が高い学科である。「手に職」を持つことで、世の中の経済状況にはあまり左右されないという強みにつながっており、毎年多くの卒業生が調理師としての第一歩を踏み出し、また後に調理の第一線で活躍している。最近は栄養士を目指すために進学する生徒も多くなっている。
２．秋田県の私立高校を取り巻く環境
（１）中学校卒業生の減少
少子化の影響
（２）公立重視の教育環境
秋田県においては、私立高校よりも公立高校へ入学することを優先させるという教育環境がある。首都圏とは異なり公立高校へ入学することが、高校進学者やその保護者にとっての目標となっており、「本当は公立高校へ入学したかった」という生徒、あるいは「公立高校へ入学させたかった」という保護者が多いというのが実情である。
（３）公立高校入試の変化
平成１７年度入試からは、公立高校を最大３回まで受験できるという新しい制度が導入された。これは「公立受験者全入方式」とでも呼ぶべきもので、私立高校には生徒を回さないという意図があるように思われる。このように、ますます私立学校を取り巻く環境は厳しくなって来ている。秋田県の私立高校生の数は、平成15年から約２５％も減少している。
中学卒業生数の推移グラフ 秋田県私立高校生数の推移グラフ
３．研究テーマ「学力向上」を目指した取り組み
秋田県は文部科学省が実施している小中学生を対象にした「全国学力テスト」で毎年上位に名を連ねているが、私立高校においては、学力格差が大きく、また様々な家庭環境による多様な進路希望の生徒が入学してくるという現状にある。よって、画一的な授業体制では学力の向上が望めないので、とりわけ学力差の大きい数学・英語を中心に、以下に示す取り組みを実践している。
【０】“学力とは”
これは学校教育法30条に、次のように定義されている。
「生涯にわたり学習する基盤が培われるように、基礎的な知識及び技能を習得させるとともに、これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力をはぐくみ、主体的に学習に取り組む態度を養うことに、特に意を用いなければならない。」よって、この力をつけるために、日々の学習活動が言語活動を通して、学校の中で行われている。そして、この到達目標は各学校で異なりそれが各校の求める学力となり、建学の精神に則った、私学の「特色」や「独自性」になる。
【１】数学・英語における学び直し授業
本校には幅広い学力層の生徒が入学してきているので、1年生において数学と英語について習熟度別クラス編成を行い、特に学力が低い生徒については、本校オリジナルの教材を用いて、中学校の基礎からの「やり直し授業」を展開し、徹底した反復授業により基礎固めを行っている。生徒の興味・関心を失わせないことにも注意を払っている。
また平成18年度より、全クラス土曜授業を実施し、授業時間数を増やしている。
【２】自学自習時間の設定
家庭学習は必要だがその方法がわからないという生徒が多いので、４月から５月にかけて、ＨＲ担任と副担任により１日５～６人を残しての、「自学自習時間」を設定している。宿題等の提出物をよく忘れる生徒に対しては、その期間が過ぎても強制的に居残りをさせたりしている。徐々に効果も現れ、定期考査前になると多くの生徒が、自ら残って勉強するようになってきている。
【３】研究授業
「わかるからできるための授業の工夫」という研究テーマで定期的に研究授業を実施し、効果的な指導方法について議論している。
研究授業のタイプは２つあり
（１）授業者が自己の課題克服に向けて、「今回はここを工夫してみました」というポイントを必ず1つあらかじめ提示して、授業を行い、そのポイントについて討議する形式
（２）教科の枠にとらわれず授業参観をしてもらい、自由に感想を述べ合う形式
【４】校内テストの活用
毎月１回、ＬＨＲの時間を活用して、国語・数学・英語の校内テストを全校一斉に実施している。このテストの目的は、３教科の基礎力確認と成績下位者に対する個別指導の対象者の絞り込みである。一定の点数を取れなかった生徒に対しては、成績発表後に担当教師による、１週間の集中特訓が行われる。その後再テストを行い合格となる。その時点では生徒も理解し、効果を上げているが、それが長期間の知識の蓄積にならないのが問題である。
【５】特別講座・補習
（１）少人数による難関大学対策講座。これは、国公立２次試験や難関私立大学の入試を意識して通常の授業では扱えない入試問題の演習などにより、高い学力をつける目的で実施している。これにより、難関の私立大学の文系学部や医学部・薬学部への合格者が増えてきている。
（２）５年ほど前から公務員希望者が急増し、特に国家公務員・地方公務員試験で出題される（判断推理・数的推理・資料解析）など自学学習ではなかなか成績が上がらない科目を、集中的に補習等で取り上げ成果をあげている。一昨年は国家公務員Ⅲ種税務に合格者をだした。
（３）いろいろな講座に専門的な講師を配置している。難関大講座には提携している予備校の講師を公務員対策講座には、公務員対策の専門学校の講師をしていた先生を招き専門性を高めた授業を展開している。
【６】環境学習
「自然を理解し、愛する心を育て、急激な変化を遂げている今日の地球環境を認識し環境保全にも役立てるために」をテーマに、２００１年度より全校生徒で取り組んでいる。
２００１年の「八郎潟残存湖のブラックバス問題」、
２００４年の「日本海沿岸の松枯れ被害」
２００６年の「ナラ類の集団枯損被害（ナラ枯れ）」
２００８年の「レアメタル問題と都市鉱山」
などの学習はその後、秋田のニュースとして大きく取り上げられた。２００８年のレアメタル問題などは現在の日本にとって資源の不足といった点からも大きな問題点である。これらをいち早く取り上げ学習の教材にしている点は他校にあまり例のない点だと思う。
４．今後の課題
以上のような学習活動の結果、就職希望者よりも進学希望者の割合が増加している点など、進路状況にも大きな変化が表れてきている。
今後の課題については
①生徒指導を含めた規範意識の向上
②進路指導を含めた進路目的意識の向上
③学習活動における自主性の向上
以上の３点を有機的に結びつけて、ひとりひとりの個性を伸ばす教育を実践しながら、今後も引き続き国公立大学・私立大学への合格者を増やし、また公務員試験合格者並びに優良企業への合格者をさらに増やすなどを目標に指導を続けていかなければならないと考えている。
質疑・応答
質問者 桜の聖母学院中高等学校 三谷先生
Q. 行事や学び直し学習、自学自習、校内テスト、環境学習の授業の中での位置づけ、どういうふうに単位に入っているのかとか、総合的な学習の中に入れてやるのかとか、そういったところをもう少しご説明いただければと思います。
A. 環境学習は総合的な学習の時間に入っています。あとは学び直しの1年生の授業に関しても基本的に単位の中に入っています。例えば数学でしたら、数学Ⅰ、数学A、基礎数学といった形で、その時間で教科書使わないで学び直しをしています。
補習は違いますが、だいたいが単位の中に入っています。自学自習に関しては放課後なので単位に入っていません。
質問者 帝京安積高等学校 古宮先生
Q. 学校で学力向上を目指した取り組みをやりましょうと声が出てから、実際に学校で始まるまでの経緯を簡単にお聞かせください。
A. 先ほど単位制という話をしましたけれども、平成17年に生徒数が減って、何かしなければならないとなって、学校長が中心となって現在の教頭・教務・総務という先生方が3、4人選ばれました。そこで、これから何をやるか概略を決めて、主に教務が中心となって時間割を作成して、やっていこうという形になりました。単位制の時が一つのポイントでしたね。校長先生から選ばれた方々が話し合って、原案みたいなものを決めて下におろしていったという形でした。
質問者 郡山女子大学付属高等学校 宗形先生
Q. 学校行事の中で合同訓練は何の時間に行うのか。
A. LHRの時間に行っています。
Q. 学び直しの授業の習熟度別はクラスとしての習熟度別なのか、教科ごとに別々なのか。
A. 教科ごとに別々に行っています。
Q. 自学自習の時間の設定のところで生徒4、5人を残してとのことでしたがどのように行っているのかお話しください。
A. 1年生は最初に全員行います。出席番号の若い順番から4、5人を残して、すぐに終わらない生徒は１回で終わらずに次にまた残すといった形で担任、または副担任がついて面倒見ているという形です。
質問者 米沢中央高等学校 栗原先生
Q. 学校の生徒人数を教えていただきたいことと、校内テストが毎月1回あるようですが定期テストとは違う形での実施なのか、時間数は学校の中ではどのようにとっているのか教えてください。
A. 学校の人数は5百数十名で、校内テストは定期テストとは全く別の時間で、HRの時間で行っています。ですので、それほど長いテストではありません。30分ぐらいでできるものです。
質問者 帝京安積高等学校 古宮先生
Q. 個人的な考えで結構ですので、今やっている取り組みの先生と生徒の満足度を100点満点中で何点だと思いますか。
A. 50点ぐらいではないのかなと思います。思いはあるのですが、なかなかまだ生徒に伝わっていないというのが正直なところですね。本当に自主性を持って自らやるというところまではまだいってません。やっぱり2年後半から3年ぐらいになって初めて自分のおしりに火が付いたような形になってやりだす。実際にはそれでは遅いのですが、そういうところなのでまだ50パーセントくらいですね。
質問者 聖光学院高等学校 木村先生
Q. 生徒募集の目玉として単位制、科目選択制を導入したとのことですが、選択科目を実施するというと、どうしても進路指導、生徒たちの進路意識を高めるということが非常に重要になってくると思うのですが、次年度の選択科目をどの時期に決定されているのか。および科目の理解という意味でシラバスの利用など簡単にお教えください。
A. 生徒たちには2学期になって提示します。うちの場合は3学期制をとっていますので、夏休み明けに提示して半年考えてもらうという形をとっています。