新井秀校長説教集39~ナルドの香油~

2020年9月17日(木)

朝 の 説 教

- ナルドの香油 -

『マルコ』14章3節~9節

1 あらずじ・・・最初に、少し解説を加えながら今日の話を辿ってみます。イエス様と弟子たちはエルサレムに近いベタニア村にいました。一同が食事をしようとすると、一人の女性が、イエス様に純粋で大変高価なナルドの香油を注ぎかけました。一滴や2滴ではなく、壺一杯の香油を残らず注ぎかけたのです。ナルドの香油は、遠くインドの北、ヒマラヤ山脈の3,000mから5,000mの高山に育つナルドという植物から取られた貴重な香料です。「ナルド」とは「香しい」という意味です。それを遥々パレスチナまで運んで来ますので、益々高価になりました。壺一杯のナルドの香油の価値は何と300デナリでした。一デナリは一日の平均賃金ですから、300デナリはほぼ年収に相当します。今の日本で言えば400万円~500万円位でしょうか。びっくりするような高値です。ですから、それを見ていた何人かが「なぜ、こんなに香油を無駄使いしたのか。お金に換えれば多くの貧しい人々に施しができたのに!」と女性を非難しました。それに対してイエス様は「するままにさせておきなさい。わたしに良いことをしてくれたのだ。この女性は私の死の準備をしてくれたのだ」と言いました。

2 この物語から教えられること

  • 第一に教えられることは、愛は計算づくではなく浪費であるということです。子を愛する母の愛は無条件です。計算はありません。子のためなら時には自分の命さえ惜しまぬのが母の愛です。昭和20年3月10日、東京大空襲の時、一日に10万人もの死者が東京で出ましたが、あちこちに小さいわが子に覆いかぶさるようにして死んでいる母親があったと、早乙女勝元さんは著書『東京大空襲』に書き残しています。

クリスマスになると良く読まれる本に、O.ヘンリーの『賢者の贈り物』があります。若く貧しい妻デラは、今度のクリスマスには夫にプレゼントしたいと思うのですが、少しずつ貯めた貯金では足りず、遂に自慢の長く美しい髪の毛を売り、それで夫の懐中時計のためにプラチナの鎖を買いました。クリスマス・イブの夜、夫のジムは先祖伝来の自慢の時計を売り、愛する妻の長い髪のために鼈甲の櫛を買っていたことが分かりました。全くの無駄です!鼈甲の櫛でとかす長い美しい髪の毛はもうなく、プラチナの鎖を結ぶ懐中時計も無いのですから。これが愛です。この聖書の女性は、自分が持っている最も大事な物を全て捧げて、イエス様への尊敬と愛を示したのです。

  • 第二に教えらえることは一期一会です。茶道に「一期一会」という言葉があります。彦根藩主で幕末に大老の要職にあった井伊直弼が書き残した言葉です。「どの茶会でも生涯にただ一度だと考えて、常に誠を尽くすべきこと」を教えた言葉です。そこから転じて「生涯にたった一度だけ会うこと」、「生涯に一度限りしかないこと」を意味する言葉です。

この女性は「今を逃したら、私はもうイエス様にお会いすることがない。お会いするチャンスを永遠に失うのだ」と感じたのです。だから自分が最も大切にしていたナルドの香油を全て主に捧げ、イエス様を心から尊敬し愛していること、イエス様を自らの救い主(キリスト)と信じる信仰告白をしたのであります。

関連の『ヨハネによる福音書』12章では、彼女の名はマリアだと書いています。皆さんが持っている讃美歌21の567番は、「ナルドの香油」という名で親しまれている讃美歌です。歌詞も素晴らしいし、美しいメロディーです。その一番を紹介して終わります。

ナルドの香油 そそいで

主に仕えた マリアを

思いおこし 私の愛

ささげます 主イエスよ